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事業承継税制(非上場株式等の相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例)

事業承継税制「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」(平成30年1月以降)の改正背景について

1.中小企業の現状と経営者の高齢化

「中小企業白書(2016 年版)」によれば、我が国経済は、経常利益が過去最高水準を記録するなど景況感は改善傾向にあり、賃金も上昇傾向が続くなど総じてみれば緩やかな回復を実現しているとされている。一方で、中小企業の数については、1999 年から 2015 年までの15 年間に約 100 万社減少しており、ピークであったリーマンショック後も緩やかではあるが中小企業数は減少傾向にある。 これと同時に、経営者の高齢化も進んでいる。経営者交代率は長期にわたって下落傾向にあり、昭和 50 年代に平均 5%であった経営者交代率は、足下約 10 年間の平均では 3.5%に低下、2011年には 2.46%まで落ち込んでいる。これに伴い全国の経営者の平均年齢は59 歳 9 ヵ月と、過去最高水準に到達している。

経営者交代率が長期にわたり下落傾向にあることは、多くの企業において経営者の交代が起こっていないことを示している。その結果として、1995 年頃に は 47 歳前後であった経営者年齢のボリュームゾーンも 2015 年には 66 歳前後 になっている。中小企業経営者の引退年齢は規模や企業の状況にもよるが平均では 67~70 歳程度であるため、今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイ ミングを迎えることが想定される。 このような状況を踏まえると、中小企業の活力の維持・向上のため、事業承継の円滑化に向けた取組は中小企業経営者や支援機関、国・自治体等、すべての当事者にとって喫緊の課題であると言える。

2.中小企業における事業承継の現状

日本政策金融公庫総合研究所が 2016 年に公表した調査によれば、調査対象 企業約 4000 社のうち 60 歳以上の経営者の約半数(個人事業主に限っていえば 約 7 割)が廃業を予定していると回答している。そのうち廃業を予定 している企業に廃業理由を聞いたところ、「当初から自分の代限りで辞めようと 考えていた」(38.2%)、「事業に将来性がない」(27.9%)に続いて、「子供に継 ぐ意志がない」「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継 者難を挙げる経営者が合計で 28.6%に達した。 この背景には、近年の息子・娘の職業選択の自由をより尊重する考え方の広 がりや、足下の業績から予測される自社の将来性が不透明であること等、事業 承継に伴うリスクに対する不安の増大等の事情があると指摘されている。

なお、この調査では、廃業予定企業であっても、約 3 割の経営者が、同業他社よりも良い業績を上げていると回答し、今後 10 年間の将来性につ いても約 4 割の経営者が少なくとも現状維持は可能と回答している。 このことは、廃業予定企業が必ずしも業績悪化や将来性の問題のみから廃業を選択しているわけではないことを示している。

こうした企業が円滑に事業承継を行うことができれば、次世代に技術やノウ ハウを確実に引き継ぐとともに、雇用を確保し、地域における経済活動への貢献を続けることにもつながる。

 

 

平成30年度税制改正「非上場株式等について相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」(10年間の特例措置)

これにより、贈与時および相続時の税負担がゼロで、後継者に自社の株式を承継させることが可能となる。

ただし、特例制度を適用するには、201841日から2023331日までの間に特例承継計画を都道府県に提出する必要がある(提出期間は5年に限定)

【贈与税・相続税の納税猶予の改正内容一覧】

   特例措置(改正・創設)    一般措置(現行)
 

事前の計画策定等

5年以内の特例承継計画の提出

H30(2018年)4月1日から

H35(2023年)3月31日まで

 

不要

 

適用期限

10年以内の贈与・相続等

H30(2018年)1月1日から

H35(2027年)12月31日まで

 

なし

対象株式 全株式 総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合 100%  贈与:100% 相続:80%
承継パターン 複数の株主から最大3人の後継者  複数の株主から1人の後継者
 

 

雇用確保の要件

原則:承継後5年間をとおして平均8割の    雇用維持が必要

弾力化:下回った場合でも下回った理由等を記載した報告書を都道府県に提出すれば納税猶予は継続

 

 承継後5年間(1年ごと判定)

平均8割の雇用維持が必要

(下回った場合納税猶予打ち切り)

 

 

事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除

一定の要件を満たす場合には次に掲げる額を基に納付金額を再計算し、当該納付金額が当初の納税猶予額を下回る場合は当該差額を免除

譲渡:譲渡対価の額

合併:合併対価の額

解散:解散時の相続税評価額

 

 

 

なし

相続時精算課税の適用 贈与者(その年の1月1日現在60歳以上)から20歳以上の者への贈与 贈与者(その年の1月1日現在60歳以上)から20歳以上の推定相続人又は孫

 

 

 事業承継税制を適用するための4条件について

1 先代経営者が会社の代表者であったこと及び会社の筆頭株主であったこと。後継者が会社の代表者になること及び

 会社の筆頭株主になること。ただし、後継者に株式を贈与する際には、後継者が3年以上役員であることが条件。

2 会社が満たすべき条件としては、会社が中小企業に該当することである。(中小企業基本法第2条第1項)

業 種

中 小 企 業 者

(以下のいずれかを満たすこと)

資本金の額又は出資の総額 常時使用する従業員の数
①     製造業、建設業、運輸業

その他の業種(②~④を除く)

3億円以下 300人以下
②     卸売業 1億円以下 100人以下
③     サービス業 5,000万円以下 100人以下
④     小売業 5,000万円以下 50人以下

3 事業継承から5年間は事業の継続が要件

後継者が代表者会社の代表者であり続けること

後継者が会社の株式を保有し続けること

会社の雇用の8割を維持すること(なお、この点については、維持できなかったことの理由等を記載した報告書を

都道府県知事に提出し、確認を受ければよい。)

4  5年間の事業継続経過後の条件

5年経過後、後継者は代表者を退任してもよい、また雇用維持の8割も意識しなくてよい。しかしながら株式を保有

することだけは継続しなければならない。株式を売却した場合、今まで猶予されていた納税の免除相当額を納税する

ことになる。最終的に免除になるのは、後継者が事業承継税制によって、次の後継者に事業を承継した場合に免除と

なる。

つまり1代目から2代目に事業承継した時の納税は、2代目が3代目に事業承継した時もしくは2代目が死亡した時

に免除となる。

納税猶予を受けるための手続

(1)贈与税の納税猶予のについての手続

 

提出先

提出先は、主たる事務所の所在地を所轄する都道府県庁

平成30年1月1日以降の贈与について適用

 

 

都道府県庁

 

特例承継計画

の策定

会社が作成し、認定支援機関が所見を記載

※「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書」という

平成35年(2027年)3月31日まで提出可能

贈与の実行
認定申請 贈与の翌年1月15日までに申請

特例承継計画を添付

 

税務署

 

税務署申告

 

認定書の写しとともに、贈与税の申告書等を提出

相続時精算課税制度の適用を受ける場合には、その旨を明記

 

 

税務署

 

 

都道府県庁

申告期限後

5年間

都道府県庁へ「年次報告書」を提出(年1回)

税務署へ「継続届出書」を提出(年1回)

5年経過後

実績報告

雇用が5年平均8割を下回った場合には、満たせなかった理由を記載し、認定支援機関が確認。その理由が経営状況の悪化である場合等には、認定支援機関から指導・助言を受ける
6年目以降 税務署へ「継続届出書」を提出(3年に1回)

 

(2)相続税の納税猶予についての手続

 

提出先

提出先は、主たる事務所の所在地を所轄する都道府県庁

平成30年1月1日以降の相続について適用

 

 

 

都道府県庁

 

特例承継計画

の策定

会社が作成し、認定支援機関が所見を記載

※「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書」という

平成35年(2027年)3月31日まで提出可能

相続の開始
認定申請 相続の開始8か月以内に申請

特例承継計画を添付

 

税務署

 

税務署申告

 

認定書の写しとともに、相続税の申告書等を提出

 

 

 

税務署

 

 

都道府県庁

申告期限後

5年間

都道府県庁へ「年次報告書」を提出(年1回)

税務署へ「継続届出書」を提出(年1回)

5年経過後

実績報告

雇用が5年平均8割を下回った場合には、満たせなかった理由を記載し、認定支援機関が確認。その理由が経営状況の悪化である場合等には、認定支援機関から指導・助言を受ける。
6年目以降 税務署へ「継続届出書」を提出(3年に1回)

 

総括

「非上場株式等について相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」(10年間の特例措置)は、今後円滑な事業

継承を進めるうえで大いに活用効果があるものです。そのためには、今後の会社経営に関してきちんと見通しを立て

るためにも事業計画を立てる必要があります。この特例税制の活用の検討ポイントは、①会社経営の将来における

展望の見える化を図ることであり②後継者の過重な負担を軽減するための生産性向上を図ることであり、いずれも

会社の永続的発展のために不可避の要素になります。 中小企業の経営者にとって、換金性のない自社株式に対して

多額の相続税が課されることは大変な苦痛でしかありません。そのため経営者は、相続税をできる限り下げようと

腐心するあまり、自社株の株価を下げる目的で、不本意ながらも意図的に利益を出さないようにしたり、不必要な

会社分割をしたり、自社株式を親族にばらまくなどといった行為も見受けられました。いずれも方法も会社経営上、

キャッシュフローを悪化させ必要な設備投資もできない、従業員の給与も上げられない等健全性を欠くものであり、

私は、専門家の立場から積極的には進めるべきではないと考えます。

そこで、会社経営者や後継者に負担をかけず、円滑な事業承継ができるようにするために設けられたのが、これまで

解説した「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」措置なのです。

会社経営者の方は、是非この制度を前向きに検討していただきたいと思います。

まだまだ、掲載できていない点が多々ありますが、「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び

免除の特例」措置の概要について解説させていただきました。

最後までお読みいただきありがとうございました。                           

 

 

 

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